私たちの銀河系内にある、宇宙の灯台を想像してみてください。GRS 1915+105と呼ばれるブラックホール・システムです。何十年もの間、天文学者たちは、この天体が回転するスプリンクラーのように、強力なエネルギーのビーム(ジェット)を噴射している様子を観察してきました。通常、このスプリンクラーは、決して揺らぐことのないコンパスの針のように、非常に一定の方向を向いています。
しかし、東アジア全域の電波望遠鏡で作られた巨大な「仮想望遠鏡」(EAVNと呼ばれます)を用いた天文学者のチームが、この宇宙のスプリンクラーが非常に奇妙な動きをしていることを最近発見しました。
彼らが発見した内容は、以下のように簡単に説明できます。
1. 「ふらつく」スプリンクラー
このブラックホールのジェットの歴史の大部分において、それは南東から北西の方向を向いていました。しかし、2025年初頭、チームはわずか37日間の期間にわたって注意深く観察したところ、驚くべき光景を目にしました。ジェットが回転し始めたのです。
- 変化: 観測開始時、ジェットは鋭い角度(118度)を向いていました。ところが、1ヶ月半足らずのうちに、それは全く異なる角度(152度)へと大きく振れました。
- 全体像: 古いデータを見返したところ、これは単なる一時的な不具合ではないことが分かりました。2023年以来、ジェットは激しく揺れ動き、非常に広い範囲の角度(118度から188度まで)をカバーしています。まるで、灯台の光が固定されているのではなく、子供がメリーゴーラウンドのように突然回転させられているかのようです。
2. 「隠された」ブラックホール
なぜ今、このようなことが起きているのでしょうか?論文は、ブラックホールが現在「隠れている」状態であることを示唆しています。
- 比喩: 明るい電球(ブラックホール)が、厚い霧(ガスと塵の円盤)に覆われている様子を想像してください。
- 原因: このブラックホールはこの「霧に包まれた」状態を2018年から続けています。科学者たちは、この霧状の円盤の内部が、テーブルの上で回転するふらつくディナープレートのように、歪み、ねじれていると考えています。ジェットはこの回転し、ねじれたプレートの中心部から放出されるため、ジェット自体が押し流され、その方向が急速に変化してしまうのです。
3. 「爆発する」塊
彼らの観測中に、特に奇妙だった特定の瞬間がありました。
- 形状: 通常、これらのジェットは細く真っ直ぐな水の流れのように見えます。しかし、彼らが捉えたスナップショットの一つでは、こちらに向かってくるジェットが、まるで移動しながら広がるゼリーの塊のように、横方向に広がっているように見えました。
- 謎: この「横方向への広がり」は、この天体においてこれまで一度も見られたことがありません。科学者たちは、なぜこのようなことが起きたのか正確には分かっていませんが、これは放出されている物質が、射出される際に非常に激しく膨張しているなど、通常とは異なる挙動を示していることを示唆しています。
4. なぜこれが重要なのか
この発見は、物理学における新しい法則が作用しているのを見つけたようなものです。
- つながり: 論文は、ジェットの方向の変化を、内側にある円盤のねじれに関連付けています。それは、回転する独楽(こま)の持ち手がふらつくのを見て、そのふらつきこそが独楽の軌道を曲げているのだと気づくようなものです。
- 未来: 科学者たちは、観察を続ける必要があると言っています。嵐がどのように動くかを理解するために嵐を観察するように、この「ねじれた円盤」理論が、ジェットがこれほど奇妙に振る舞っている本当の理由であるかどうかを確認するために、さらなる観測が必要なのです。
要約すると: かつては安定した矢のようであった有名な宇宙のジェットが、突如として回転し、ふらつき、時には膨張する光のビームへと変貌しました。その原因はおそらく、それを打ち上げる「エンジン」が、厚い宇宙の霧の下で、ねじれ、回転しているためです。
技術要約:マイクロクエーサーGRS 1915+105における異常なジェット方位の変化の発見
問題提起
天の川銀河内のプロトタイプ的マイクロクエーサーであるGRS 1915+105は、歴史的に南東ー北西方向(平均位置角(PA)147∘±8∘)に安定したラジオジェットを示してきた。しかし、本天体は2018年に入り、低X線フラックスとエピソディックなラジオフレアを特徴とする特異な持続的X線遮蔽状態に入った。近年の文献では、この遮蔽は歪んだ歳差運動を行う内側降着円盤に起因する可能性が示唆されている。2023年にもジェットパラメータの変化が報告されているが、この遮蔽フェーズにおける日単位でのジェット方位の短期的進化については、依然として制約が不十分であった。本研究は、2025年初頭の現在の活動的フレア期間におけるジェットの挙動を特性付けるための高解像度モニタリングの必要性に対処するものである。
手法
本研究では、East Asia VLBI Network (EAVN) を用い、2025年1月18日から2月24日にかけて、6.7 GHzにおいてGRS 1915+105の3エポック観測を実施した。これらの観測は、RATAN-600モニタリングプログラムによって検出された巨大なラジオフレアによってトリガーされた。
- 観測: データは左円偏波で、256 MHzの帯域幅を用いて記録された。観測には、ターゲット天体と位相較正源であるICRF J192540.8+122738 (J1925+1227) の間の高速スィッチング(∼3分サイクル)を用いた。
- データ簡約: 相関処理はKorea–Japan Correlation Center (KJCC) で行われた。標準的なVLBI較正手順がAIPSを用いて適用された(a priori振幅較正、バンドパス較正、および位相較正を含む)。特筆すべき点として、標準的な再計算テーブルの配信を妨げるKJCCでのシステム障害により、地学的なモデルと遅延補正の生成にはN. Sakaiによって開発された代替コードが使用された。
- イメージングとモデリング: 位相較正された画像はDIFMAPで生成された。天体構造は、MODELFITタスクを用いて可視度データに対して円形ガウス成分をフィッティングすることでモデル化された。ジェットの方位(PA)は、ジェット成分の相対位置とコアを通る最適適合直線(誤差重み付き線形回帰を利用)を算出することによって導出された。
主要な貢献と結果
極端なジェット方位変化の発見: 観測の結果、37日間という短期間でのジェットの位置角の劇的な変化が明らかになった。
- エポックA (1月18日): ジェットは、GRS 1915+105で測定された中で最小となるPA 118∘±7∘ を示した。
- エポックB (1月25日): PAは 131∘±6∘ に増加した。
- エポックF (2月24日): PAはさらに増加し、152∘±2∘ となった。これは歴史的な平均値と一致している。
- これは37日間で34∘の変動を意味し、歴史的な平均値 147∘±8∘ から大きく逸脱している。
長期進化の文脈: 1994年から2025年までの文献データをまとめることで、著者らはジェットの方位が2015年まで比較的安定していたことを示している。しかし、2023年以降、ジェットは118∘から188∘までの範囲で顕著な変動を示している。2025年の観測は、この新しい変動レジームにおける極端な下限値を捉えている。
エポックFにおける特異な形態: エポックFの画像は、明るい接近側ジェット成分(F1)がその強度ピークに対して北東方向に伸長しているという、異常な構造を明らかにした。
- 検証: 解決間隔を短縮した自己較正、データを時間的な前後半に分割する手法、および逐次的なアンテナ除去を含む広範なテストにより、この特徴がアーティファクトではなく実在するものであることが確認された。
- フラックス比: エポックFにおけるジェット対反噴流のフラックス密度比(RS)は 12.3±3.4 と算出された。これは過去のエポック(<10)よりも有意に高く、極めて非対称な噴出を示唆している。
- 解釈: 著者らは、この形態が接近側ジェット・ブロブの横方向への広がり(lateral spreading)を示しており、この天体ではこれまで報告されていない現象であると示唆している。
意義と主張
論文は、観測された急速かつ大規模なジェット方位の変動が、天体の持続的なX線遮蔽状態の中で発生していることは、動的な内側降着円盤の強力な証拠であると主張している。
- 歳差運動仮説: ブラックホール連星V404 Cygniとの類似性を引き合いに出し、著者らはジェットの方位の変化が、歪んだ内側スリム降着円盤の歳差運動に起因すると提案している。この歳差運動は、スピン・軌道間の不整合(spin–orbit misalignment)によって駆動されている可能性が高い。
- X線データとの整合性: この解釈は、歪んだ歳差運動を行う内側円盤がX線遮蔽および放射線スペクトル線を引き起こしていることを示唆する、最近のX線分光研究(例:J. M. Miller et al. 2025)と一致している。
- 異常な噴出: 接近側ジェット成分における横方向への広がりの検出は、噴出プロセスにおける複雑な流体力学を示唆しており、おそらく同じ歳差運動を行う円盤のメカニズムに関連している。
著者らは、ジェットの方位は歴史的には安定していたものの、現在のエポック(2023年以降)は不安定性の異なるフェーズを代表していると結論付けている。円盤・ジェットの歳差運動シナリオを確定し、特異な横方向への広がりの起源を調査するためには、将来的なマルチ波長観測が不可欠であると特定している。
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