技術要約:合成次数体における漏洩耐性を持つシャミアの秘密分散法の部分的決定論化
1. 問題設定
本論文は、合成次数体 (d ≥ 2 d \ge 2 d ≥ 2 である F p d \mathbb{F}_{p^d} F p d )における物理ビット漏洩 (physical-bit leakage)に対して耐性を持つ、シャミアの秘密分散法(SSS)のための明示的な評価点(evaluation places)の構成について取り組んでいる。
標準的なSSSでは、秘密が n n n 個のパーティ間で共有され、任意の k k k 個が集まればそれを復元できる。ランダム化された構成(評価点を一様にランダムに選択するもの)は、局所的な漏洩に対して統計的に安全であることが知られているが、これには信頼できる公開乱数が必要となる。実際には、攻撃者が乱数シードに影響を与え、スキームを脆弱な評価点へと誘導する可能性がある。
先行研究では以下のことが確立されている:
素数体(F p \mathbb{F}_p F p )上では、ランダムな評価点は高い確率で漏洩耐性を実現する。
合成次数体(F p d \mathbb{F}_{p^d} F p d )上では、Nguyen(EUROCRYPT 2025)が完全な二分法 (perfect dichotomy)を確立した。すなわち、任意の線形符号ベースの秘密分散法は、物理ビット漏洩に対して「完全に安全(統計的距離 0)」であるか、「完全に無防備」であるかのいずれかである。
しかし、合成次数体においては、k > 2 k > 2 k > 2 または一般的なブロック漏洩レジームに対して、明示的かつ決定論的な評価点の族はこれまで知られていなかった。素数体における既存の明示的な構成は、合成体の線形座標写像には適用できない非線形なビット抽出特性に依存していた。
核心となる課題は、合成体設定において物理ビット漏洩に対する完全な安全性を維持しつつ、評価点の選択を部分的決定論化 (エントロピーの削減)することである。
2. 手法および構成
著者は部分的決定論化 戦略を提案している。n n n 個の独立したランダムな評価点を選択する代わりに、ランダムに選ばれた基点 x 0 x_0 x 0 に有理関数 Φ \Phi Φ を繰り返し適用することで、評価点を構成する。
構成の詳細:
体のセットアップ: F = F p d \mathbb{F} = \mathbb{F}_{p^d} F = F p d とし、原始元を α \alpha α とする。
ステップ演算子: モービス変換 Φ ( x ) = α x x + 1 \Phi(x) = \frac{\alpha x}{x + 1} Φ ( x ) = x + 1 α x を定義する。
評価点: n n n 個の評価点は、x j = Φ j ( x 0 ) x_j = \Phi^j(x_0) x j = Φ j ( x 0 ) (ただし j = 0 , … , n − 1 j = 0, \dots, n-1 j = 0 , … , n − 1 )として定義される。ここで x 0 ∈ F ∗ x_0 \in \mathbb{F}^* x 0 ∈ F ∗ はランダムに選ばれた基点である。
エントロピーの削減: このスキームの指定に必要なのは d log p d \log p d log p ビット(x 0 x_0 x 0 を選ぶため)であり、n n n 個の独立したランダムな点が必要な場合の n d log p nd \log p n d log p ビットから大幅に削減されている。
鍵となる構造的洞察: セキュリティ分析は、Φ \Phi Φ の反復による**異なる極(distinct poles)**に基づいている。
Φ 0 ( x ) = x \Phi^0(x) = x Φ 0 ( x ) = x は ∞ \infty ∞ に極を持つ。
j ≥ 1 j \ge 1 j ≥ 1 の場合、Φ j ( x ) \Phi^j(x) Φ j ( x ) は F ∗ \mathbb{F}^* F ∗ 内の異なる有限の点に極を持つ。 この「極の相違性(pole-distinctness)」が極めて重要である。著者は、候補となる Ψ ( x ) = α x \Psi(x) = \alpha x Ψ ( x ) = α x (純粋な拡大)との対比を示している。Ψ ( x ) \Psi(x) Ψ ( x ) では、すべての反復が ∞ \infty ∞ という同一の極を共有するため、セキュリティの議論が崩壊してしまう。
3. 技術的アプローチ
証明は、Nguyen (2025) によって確立された完全な二分法 を利用して、以下の3つのフェーズで進行する。
完全な二分法 (フェーズ1): F p d \mathbb{F}_{p^d} F p d における座標抽出は F p \mathbb{F}_p F p 線形であるという事実を利用する。その結果、漏洩マップは線形となる。これは、異なる秘密に対する漏洩分布の統計的距離が 0 または 1 であることを意味する。完全な安全性は、テスト行列 Θ i ⃗ \Theta_{\vec{i}} Θ i (評価点と漏洩パターンから導出される)が F p \mathbb{F}_p F p 上でフル列ランクを持つことと同値である。
部分分数分解の非退化性 (フェーズ2): テスト行列がフルランクであることを証明するために、著者は評価点の累乗の非自明な線形結合が消滅しないことを示さなければならない。彼らは有理関数 G ℓ ( x ) = ∑ c j η ( i j ) ( Φ j ( x ) ) ℓ G_\ell(x) = \sum c_j \eta(i_j) (\Phi^j(x))^\ell G ℓ ( x ) = ∑ c j η ( i j ) ( Φ j ( x ) ) ℓ を定義する。部分分数分解 を用いることで、Φ j \Phi^j Φ j の異なる極を利用する。極が互いに異なるため、G ℓ G_\ell G ℓ の特定の極における留数(residue)は、和の中の単一の項によって決定される。もし G ℓ G_\ell G ℓ が恒等的にゼロであれば、すべての係数がゼロにならなければならない。この「非退化性」の議論により、ランク条件が失敗する「悪い」基点 x 0 x_0 x 0 の数を制限できる。
マルチブロックへの拡張 (フェーズ3): この議論をマルチブロック漏洩(各シェアあたりの複数の座標が漏洩する場合)に拡張する。シェア内の線形結合から生じる体の係数を処理し、漏洩パターンが「許容可能(admissible)」(シェアごとに異なるブロック位置を持つ)である限り、部分分数分解の議論が有効であることを示す。
4. 主要な結果
定理 1.1 (シングルブロック漏洩に対する完全な安全性): パラメータ n = O ( d / log p d ) n = O(d / \log_p d) n = O ( d / log p d ) および任意の閾値 k ≥ 2 k \ge 2 k ≥ 2 に対して、サイズ ∣ B a d ∣ ≤ n + n ( d p ) n |Bad| \le n + n(dp)^n ∣ B a d ∣ ≤ n + n ( d p ) n である「悪い」基点の集合 B a d ⊂ F ∗ Bad \subset \mathbb{F}^* B a d ⊂ F ∗ が存在する。x 0 ∉ B a d x_0 \notin Bad x 0 ∈ / B a d である任意の x 0 x_0 x 0 について、評価点 x j = Φ j ( x 0 ) x_j = \Phi^j(x_0) x j = Φ j ( x 0 ) を用いたスキームは、あらゆるシングルブロック漏洩パターンに対して完全な安全性 (統計的距離は正確に 0)を持つ。
これは、任意の素数 p p p に対して、シェアあたりのシングル物理ビット漏洩に対する完全な安全性を示唆している。
d > n ( 1 + log p d ) + log p ( 2 n ) d > n(1 + \log_p d) + \log_p(2n) d > n ( 1 + log p d ) + log p ( 2 n ) であるとき、良好な x 0 x_0 x 0 の存在が保証される。
定理 1.2 (マルチブロック漏洩): M M M 個の合計ブロックが漏洩する固定された許容可能な漏洩パターンに対して、悪い集合のサイズは n + n ⋅ p M n + n \cdot p^M n + n ⋅ p M で抑えられる。M < d − log p ( 2 n ) M < d - \log_p(2n) M < d − log p ( 2 n ) であるとき、良好な x 0 x_0 x 0 が存在する。
≤ M \le M ≤ M 個のブロックを持つすべての パターンに対する普遍的な安全性については、∣ B a d ∣ ≤ n + n ( d p e ) M |Bad| \le n + n(dpe)^M ∣ B a d ∣ ≤ n + n ( d p e ) M となり、d > M ( 5 2 + log p d ) + log p ( 2 n ) d > M(\frac{5}{2} + \log_p d) + \log_p(2n) d > M ( 2 5 + log p d ) + log p ( 2 n ) のときに存在が保証される。
分類器: 本論文は、候補となる x 0 x_0 x 0 が与えられたとき、すべての漏洩パターンに対してフルランク条件を検証する明示的な分類器(アルゴリズム 1)を提供している。これは、構造化された構成の安全性を証明するための健全なテストとして機能する。
5. 意義と比較
本論文は、以下の貢献と区別を主張している:
完全な安全性 vs 統計的安全性: 合成体上の従来のランダム化された構成が統計的安全性(ϵ = 2 − Ω ( d ) \epsilon = 2^{-\Omega(d)} ϵ = 2 − Ω ( d ) )を提供していたのに対し、本構成は特定のパラメータ領域において完全な安全性 (統計的距離 0)を達成する。
決定論化: 評価点を(Φ \Phi Φ の軌道という)一パラメータ族に制限することで、スキームを指定するために必要な乱数を n d log p nd \log p n d log p ビットから d log p d \log p d log p ビットへと削減している。
明示的な構成: 物理ビット漏洩に耐える、合成体上の k > 2 k > 2 k > 2 用の初の明示的な評価点の族を提供し、「ランダムな評価点」のパラダイムを超えた。
限界とトレードオフ:
パーティ数 n n n は O ( d / log p d ) O(d / \log_p d) O ( d / log p d ) に制限されている。これは、ランダム化された構成が O ( d k / log p d ) O(dk / \log_p d) O ( d k / log p d ) をサポートしているのと対照的である。著者は、この因子 k k k の損失は一パラメータ構成に固有のものであると推測している。
マルチブロックの普遍性は、現在、パターン列挙のボトルネックによって制限されており、M M M に関する指数関数的な悪い集合の境界が存在する。
本構成は、モービス変換 Φ ( x ) = α x / ( x + 1 ) \Phi(x) = \alpha x / (x+1) Φ ( x ) = α x / ( x + 1 ) の特定の代数的構造に依存している。代替案である拡大 α x \alpha x α x は、セキュリティを提供できない。
本研究は、すべてのパラメータ領域に対して決定論化問題を解決すると主張しているわけではなく、マルチブロックの普遍性における多項式サイズの悪い集合の境界などの未解決問題も特定しており、単一パラメータ構成による「因子 k k k の損失」が固有の性質である可能性を示唆している。主要な貢献は、異なる極の反復を利用することで、実用的に関連のある特定の領域において完全な安全性を達成する、厳密な部分的決定論化である。