地球の内部を、巨大でゆっくりと調理されている「スープの鍋」だと想像してみてください。長い間、科学者たちは、この鍋の中で作られる最大の「料理」には、2つの全く異なるレシピがあると考えてきました。それは、海底にある巨大な山脈である海洋プラトー(海洋台地)と、陸上に広がる巨大な溶岩流である大陸洪水玄武岩です。
かつての理論は、このようなものでした:
- 陸の料理(大陸LIPs): 水分やその他の流体に富んだ、「湿った」スープから作られる。
- 海の料理(海洋プラトー): 極めて高温だが、ほとんど水分を含まない「乾いた」スープから作られる。
劉佳(Jia Liu)氏らを中心とするこの論文は、そのレシピ本を書き換える探偵物語のようなものです。彼らは、アフリカの南にある**アギュラス・プラトー(Agulhas Plateau)**と呼ばれる特定の海底山脈へと向かい、その「スープ」を直接味わうために深く潜りました。
探偵の仕事: 「湿った」手がかりを見つける
研究チームは、約9500万年前に形成されたアギュラス・プラトーの古代の岩石にドリルで穴を開けました。彼らは単に表面を見ただけではありません。以下の2つの特定の要素を分析しました:
- 新鮮なガラス質: 冷え固まる溶岩の泡の表面の殻のようなもので、元の成分を閉じ込めています。
- 微細な結晶(単斜輝石): マグマが蒸気を失う前の水分量を保存している、いわば「タイムカプセル」の役割を果たします。
発見:
彼らは、この海底山脈を築き上げた「スープ」が、驚くほど湿っていたことを発見しました。
- 水分量は、海洋プラトーとしては予想を遥かに上回るものでした。
- 事実、それは大陸で見られる巨大な溶岩流と同じくらい「湿って」いました。
- この水分は、海水が後から漏れ込んできたもの(よく疑われる原因)ではなく、化学的な指紋(同位体)によって、地球の深部、マントルから最初から存在していたことが証明されました。
比喩:「プルームの木」
この「湿ったスープ」がどこから来たのかを説明するために、著者たちは美しい「木の比喩」を用いています。
地球の下部マントルには、巨大で深い根を持つ木(「プルームの木」と呼ばれる)があると想像してください。
- 根: 地球の深部、アフリカの下には、巨大でゆっくりと動く熱い岩石の塊(大規模低速度構造域、またはLLSVPと呼ばれるもの)があります。これが幹と根です。
- 枝: この根から、熱い物質が枝のように上昇してきます。その特定の枝の一つが、**ブーヴェ・プルーム(Bouvet plume)**です。
- 果実: アギュラス・プラトーは、この特定の枝(ブーヴェ・プルーム)が地表に到達したときに成長した「果実」です。
この論文は、この木系全体が**水を含んでいる(ハイドレート化している)**と主張しています。それは単なる熱くて乾いた枝ではありません。深部の地球から大量の水を引き受けて上昇してくる枝なのです。アギュラス・プラトーは、この特定の枝が「熱く(岩石を溶かすため)」、かつ「湿っていた(溶融を容易にし、膨大な量の溶岩を生み出すため)」ことによって形成されました。
なぜこれが重要なのか
これは、地球の仕組みに関する理解を2つの点で変えるものです。
- 「乾燥」という神話の打破: 私たちは以前、海洋プラトーは乾燥した超高温のプルームによって作られ、大陸の洪水は湿った、やや低温のプルームによって作られると考えていました。この論文は、それらが同じような「湿った」深部マントルを起源としていることを示しています。彼らは見知らぬ他人ではなく、兄弟なのです。
- 水が惑星を動かす: このマグマは非常に湿っていたため、噴出した際に、膨大な量の水や塩素などのガスを海洋や大気中に放出しました。これは、これらの巨大な海底火山が、私たちが考えていた以上に地球の気候や海洋化学の変化において大きな役割を果たしてきたことを示唆しています。
結論
アギュラス・プラトーは、乾燥した超高温の火によって作られたのではありません。アフリカの下に根を張る巨大なマントルの木の、水に富んだ深い枝から昇ってきた、熱くて湿った火によって築かれたのです。この発見は、水が、それが陸上であろうと海底であろうと、地球の最大級の火山岩区を形成するための重要な成分であることを示唆しています。
技術要約:水を含んだインド・アフリカ・マントルプルームによるアグラス海洋台地の形成
問題提起
岩石学における長年の論争は、大規模火成岩岩石区(LIPs)の起源に関するものである。大陸性のLIPsは水に富むマントル源に由来することがますます認識されている一方で、海洋台地は伝統的に、異常に高温だが比較的乾燥したマントルプルームの産物であると解釈されてきた。この二分法は、海洋性と大陸性のマグマ形成過程が根本的に異なる起源を持つことを示唆している。しかし、この区別はサンプリングのバイアスに起因している可能性がある。すなわち、海洋台地の玄武岩質ガラスは進化が進み脱ガスしていることが多く、一次的な含水量を過小評価している可能性があり、またメルトインクルージョン(液包体)は二次的な水和の影響を受ける可能性がある。その結果、海洋台地の揮発性成分の総量と深部マントル起源に関する制約は不十分なままであり、海洋性と大陸性のLIPsが、統一された水に富む深部マントルのメカニズムを共有しているのかという疑問が残されている。
研究手法
本研究は、IODP航海392によって回収されたアグラス台地(AP)の基盤部の試料を分析することで、これらの不確実性に対処する。研究者らは以下の要素を組み合わせたマルチプロキシ・アプローチを用いた:
- 試料選定: サイトU1582から得られた新鮮な玄武岩質ガラス(枕状溶岩)および、サイトU1579およびU1580の貫入シルから得られた単斜輝石(cpx)フェノクリスト。
- 揮発成分分析: 二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて、ガラス中のH₂O、CO₂、Cl、Fの濃度を測定した。また、SIMSにより、in situでのホウ素(B)含有量および同位体組成(δ¹¹B)も決定した。
- 鉱物中の含水量: フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いて、cpxフェノクリスト中の水を定量化した。親マグマの含水量は、cpxとメルト間の実験的に導出された分配係数を用いて再構成した。
- 同位体系統学: 水素同位体(δD)を測定し、一次的なマグマ由来の水と二次的な汚染を区別した。
- 地球化学モデリング: 地殻への同化作用を排除するために、微量元素系統(Ce/Pb, Nb/U)を分析した。マグマの分化は、結晶作用による影響を補正し、一次マグマの組成を推定するためにPetrolog3ソフトウェアを用いてモデル化した。マントルのポテンシャル温度(Tp)は、水の存在に対する補正を加えた上で、PRIMELT3モデルを用いて再構成した。
主な結果
- 極めて高い含水量: アグラス台地の試料は、報告されている全海嶺中央部(MORB)および海洋島玄武岩(OIB)の中で、最も高い含水量およびH₂O/Ce比を示した。
- ガラス(サイトU1582): H₂O/Ce比が621から706の範囲にあり、通常のMORBやOIBを大幅に上回っている。
- 親マグマ: cpxフェノクリストから再構成された親メルトの含水量は2.0〜6.2 wt.%に達し、島弧玄武岩に典型的なレベルに達している。
- 一次的なマグマ起源: 本研究は、この水の起源が二次的な水和や地殻汚染ではないことを示した。
- 同位体証拠: 水素(δD: -72 to -80‰)およびホウ素(δ¹¹B: -0.19 to -7.31‰)の同位体組成は、枯渇したマントルと重なり、海水との相互作用や変質した地殻の同化によって期待される重いシグネチャーを示さなかった。
- 微量元素: マントル的なCe/PbおよびNb/U比、ならびに流動性元素(Rb, Ba, U, Pb)の濃集の欠如は、変質した海洋地殻の有意な同化を否定している。
- 鉱物学的証拠: cpxの水含有量と四面体配位のAl³⁺との相関、および特定のOH吸収バンドは、結晶化の過程で取り込まれ、結晶化後の拡散から保持された構造的に結合した水であることを示している。
- 熱的および地質学的コンテキスト:
- 温度: 水の影響による融解の補正を行った後、マントルのポテンシャル温度(Tp)は約1437°Cと推定された。これは世界のMORBよりも高温であるが、シベリア・トラップのような他の主要なLIPsよりは低く、エメイシャンLIPと同等の範囲にある。
- 供給源: データは、この台地が、適度に高温で、かつ極めて水に富むプルーム源の部分溶融によって形成されたことを示している。
デン
- 深部マントルとの関連性: 高解像度の地震波トモグラフィーとこれらの知見を統合することで、著者らは、この水に富む供給源を、アフリカのラージ・ロー・シェア・ベロシティ・プロビンス(LLSVP)に根ざした「プルーム・ツリー」システムのブーヴェ枝に関連付けている。
意義と主張
本論文は、アグラス台地が水に富むマントル源から形成されたことを示すことで、乾燥した海洋台地と湿潤な大陸性LIPsという一見した矛盾を解決すると主張している。著者らは以下の通り述べている:
- 統一されたメカニズム: インド・アフリカ領域における海洋性と大陸性のLIPsは、水に富むプルームを特徴とする共通の深部マントル起源を共有している可能性がある。
- 水の役割: 水は地球の最大級のマグマ形成領域を生成する上で能動的かつ決定的な役割を果たしており、海洋台地は単に異常に高温で乾燥したプルームヘッドによって駆動されるという従来の観点に異を唱えている。
- 深部構造: アグラス供給源の極端な水に富む性質は局所的な異常ではなく、大陸性洪水玄武岩や他の海洋ホットスポットをも供給している、より広範なアフリカLLSVPプルーム・ツリー・システムに供給される揮発性物質に富む物質を反映している可能性が高い。
- 環境への影響: これらの深部かつ水に富む供給源からの膨大な量の揮発成分(H₂O, Cl)の放出は、海洋・大気系に大きな影響を与え、白亜紀における海洋循環や全球気候の進化に影響を及ぼした可能性がある。
本研究は、海洋性と大陸性のLIPsの区別は、これまで考えられていたほど根本的なものではなく、両者がともに下部マントル内の揮発性物質に富むリザーバーを利用している可能性があると結論づけている。
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